2026-07-10 / blog / 約4,438字(読了 約9分)

ダウンロードの4割は中国発——オープンモデルの主役交代を、数で確かめる

オープンなAIモデルの世界で、主役が静かに入れ替わっていました。Hugging Faceの公式集計では、この1年で中国発モデルがダウンロードの約4割を占め、米国を抜いて最大勢力になっています。派生モデルはQwen系だけで11万を超えました。そして私たちが毎日集めている研究プレプリントの中でも、中国発モデルの名前はもう当たり前のように顔を出します。今回は「これから起きる兆し」ではなく、すでに起きてしまった地図の塗り替えを、数で確かめます。

第3回「モデルの国境」の最後で、大手が結ぶ輸出管理や自主規制の枠組みには、どうしても外側があるという話をしました。誰でも重み(モデルの中身)を丸ごと手元に持ち帰れるオープンなモデルは、その枠の外を静かに流れていきます。そしてその流れの象徴が、中国発のオープンモデルだと書き置きました。今回はその流れを、正面から数で見にいきます。

いつもの記事は「これから起きるかもしれない兆し」を追いかけますが、今回は毛色が違います。中国発オープンモデルの台頭は、もう兆しの段階ではなく、集計に表れた事実になっているからです。まずは全体像を一度、広く浅く眺めます。細部の一つひとつ——たとえば特定の1社を掘り下げる回や、ライセンスの中身に踏み込む回——は、稿を改めて追う予定です。

数字のまとめ

先に、この記事で見る数字を一枚にまとめておきます。上の4つはHugging Faceの公式集計(2026年3月公開)から、いちばん下は当サイトが毎日集めている研究記事の集計からです。

見るもの 数字
Hub上のダウンロードに中国発モデルが占める割合(直近1年) 約41%(米国を上回り最大勢力。ただし過半ではない)
Baiduのモデル公開数 2024年 0本 → 2025年 100本超
ByteDance・Tencentの公開数の伸び それぞれおよそ8〜9倍
Qwen系の派生モデル(*1)の数 11万超(Qwenのタグが付くもの全体では20万超)
当サイトがこの1か月ほどで集めた研究記事での言及数 Qwen 187 / DeepSeek 46 / MiniMax 4 / Kimi 3

数字の出どころと読み方を、以下で順に見ていきます。

論点1: 地図は、この1年で塗り替わった

まず、オープンモデルの配布拠点として世界最大級のHugging Face(*2)が、3月に公開した年次の総括があります。ここに、地理の構成が変わったことがはっきり書かれています。

Hugging Faceのデータでは、月間のダウンロードでも累計のダウンロードでも、中国が米国を上回りました。同社は「直近1年で、中国発のモデルがダウンロードの最大勢力、割合にして41%を占めるに至った」と記しています。これは過半数ではありませんが、複数の国・地域が分け合う中で首位に立った、という意味です。

なぜ短期間でここまで動いたのか。背景として同社が挙げているのは、中国側の参入ラッシュです。2025年1月にDeepSeekのR1というモデルが広く話題になったのを一つの起点として、モデルを公開する中国の組織の数も、Hub上のリポジトリ(*3)の数も跳ね上がりました。具体的には、Baiduは2024年にはHub上での公開が0本だったところから、2025年には100本超に。ByteDanceとTencentは、それぞれ公開数をおよそ8〜9倍に増やしています。もともとは中身を公開しない方針だったBaiduやMiniMaxが、公開する側へ舵を切ったとも書かれています。

もう一つ、存在感を測る指標があります。派生モデルの数です。あるモデルを土台に、微調整(ファインチューニング)や統合を施して作り直した子モデルがどれだけ生まれたか——これは、そのモデルがどれだけ「使える土台」として選ばれたかを映します。Hugging Faceによれば、Alibaba(Qwenの開発元)は組織単位で、GoogleとMetaを合わせたよりも多くの派生モデルを持ちます。Qwen系の派生モデルは11万を超え、Qwenのタグが付くもの全体では20万を超えるといいます。

一つの企業のモデルを土台にした子モデルが20万——この数字は、中国発モデルが「話題になった」水準を通り越して、世界中の作り手の作業台になっていることを示しています。

論点2: 中国発モデルは、研究の「土台」になった

同じ変化は、私たちの手元のデータにも表れています。ここからは、当サイトが毎日集めている一次情報の蓄積を使います。

Signal Field Notesは、研究プレプリント(*4)や公式リリースを日々収集しています。本格的に集め始めてからのおよそ1か月分の研究記事を、モデル名で数えてみました。結果は、冒頭の表のとおりです。Qwenへの言及が187件、DeepSeekが46件。少し離れてMiniMaxが4件、Kimiが3件と続きます。

念のため、この数え方には粗さがあります。記事のタイトル・要約・キーワード欄への文字列一致で数えた概数であり、そのモデルを土台に使った研究も、単に比較対象として名前を挙げただけの研究も、どちらも1件に数えています。それでも、この1か月に集めた研究記事のうち、実に180件を超える記事がQwenに触れていたという事実は、示唆に富みます。研究者が新しい手法を試すとき、その土台として真っ先に手に取るモデルの一つが、いまや中国発になっている——数はそう語っています。

図にすると、こういう構図です。

flowchart LR
    B[中国発のベースモデル<br/>Qwen・DeepSeekなど] --> D[派生モデル<br/>Qwen系だけで11万超]
    B --> R[世界中の研究・実運用<br/>微調整や比較の土台に]
    D --> R

なぜ研究の土台に選ばれるのか。Hugging Faceの総括は、二つの傍証を添えています。一つは、小さいモデルほど多く使われているという傾向です。とても大きなモデルよりも、手元の計算資源で動かせる小型のモデルのほうが、はるかに高い頻度でダウンロード・配置されている、と同社は述べています。Qwenのように、極小のものから大型のものまで幅広い大きさをそろえた系列は、この「小さいほうがよく使われる」需要に応えやすい、と読めます。

もう一つは、更新の速さです。同社によると、オープンモデルへの関心は公開直後に山を迎え、その後は落ちていきます。関心が続く期間の平均は約6週間だといいます。裏を返せば、途切れずに新版を出し続けたモデルだけが、存在感を保てるということです。DeepSeekが版を重ねながら競争にとどまってきた例が、その裏づけとして挙げられています。参入の数、派生の多さ、小型のそろえ方、更新の速さ——これらが噛み合った結果が、41%という数字なのだと思います。

ちなみに、この「土台化」は一部の人気モデルに集中して起きています。Hugging Face上のモデルの約半分は累計ダウンロードが200に満たない一方、上位200モデル(全体の0.01%)だけで全ダウンロードの49.6%を占めるといいます。オープンモデルの世界は一様な市場ではなく、ごく少数の土台に利用が集まる、偏りの大きい世界です。その少数の頂点に、中国発モデルが並び始めた、というのが今回の話です。

論点3: 普及を支えたのは「開放度」——ただし、その中身は次回に

では、なぜこれほど土台にされたのか。数を見てきた最後に、仕組みの側にも一つだけ触れておきます。

派生モデルがこれだけ生まれる前提には、重みを持ち帰り、改変し、再配布してよい、という許諾の寛容さがあります。多くのオープンモデルは、Apache 2.0やMITといった、商用利用も改変も広く認める寛容なライセンス(*5)で公開されています。誰でも土台にしてよいからこそ、11万や20万という派生の山ができる——開放度と普及は、表と裏の関係にあります。

もっとも、「開放」の中身は一様ではありません。近ごろは、基本は寛容でありながら、利用の規模が一定を超えた場合に表示義務などの条件を付ける、といった折衷的な許諾も現れ始めています。どこまでが本当に自由で、どこからに条件が付くのか——この線引きは、数だけを眺める今回の趣旨からはみ出します。ライセンスの中身がいま何をめぐって動いているのかは、近いうちに独立した回として掘り下げる予定です。今回は、開放度が普及の駆動力になっている、という事実の確認までにとどめます。

観測点

いつもどおり、未来を断定はせず、あとで答え合わせできる観測点を置いておきます。今回は「兆し」というより、すでに起きた変化がこの先どう転ぶかを見る点になります。

  1. 中国発モデルのシェアは、最大勢力から過半へ届くのか。 いまは41%で首位ですが、過半ではありません。次にHugging Faceのような集計が更新されたとき、この割合が5割に迫るのか、それとも米国側やその他の追い上げで頭打ちになるのかを見ます。(次に見る時期: 次の年次・半期の集計公表時)
  2. 当サイトのデータでの存在感は、この先も伸びるのか。 今回のQwen 187・DeepSeek 46という数字を起点に、研究記事での言及がさらに増えるのか、横ばいになるのかを、自前の集計で定点観測していきます。同じものさしで撮り続けることで、重心の移動が見えてきます。(次に見る時期: 数か月後に再集計)
  3. 「開放度」の条件付けは広がるのか。 寛容なライセンスが主流のまま推移するのか、利用規模に応じた条件付きの許諾が増えていくのか。これは論点3で予告した次回のテーマそのものです。(次に見る時期: 2026年内)

国境の外を流れていた水は、いつのまにか本流になっていました。次は、その水源のひとつを選んで、もう少し近くから眺めてみるつもりです。


注釈

*1 派生モデル(derivative model): 既存のモデルを土台に、追加の訓練(微調整)や複数モデルの統合などを施して作り直したモデル。土台にされた回数が多いほど、そのモデルが「使える下地」として広く選ばれたことを示す目安になります。

*2 Hugging Face(ハギングフェイス): オープンなAIモデルやデータセットを公開・共有するための、世界最大級のプラットフォーム。多くの開発者がここでモデルを配布し、ダウンロードするため、その集計は業界全体の傾向を映す代表的な指標として使われます。

*3 リポジトリ(repository): モデルやデータセットなどを、関連ファイルとまとめて置いておく保管単位。ここでは「Hub上で公開されたモデルの置き場」の数、おおむね公開されたモデルの本数を指します。

*4 プレプリント(preprint): 学術誌の正式な査読を経る前に、研究者が先に公開する論文の草稿版。AI分野では研究の進みが速く、正式な掲載を待たずにプレプリントで成果を共有するのが一般的です。速報性が高い反面、内容が確定した査読済み論文ではない点には注意が要ります。

*5 寛容なライセンス(permissive license): Apache 2.0やMITに代表される、商用利用・改変・再配布を広く認める利用許諾のこと。土台として自由に使えるため、派生モデルが生まれやすくなります。対して、利用条件を細かく定める許諾もあり、その線引きは回を改めて扱います。

tags: オープンモデル / 定点観測 / 中国

この記事は運営者がテーマを決め、AIが執筆し、運営者が内容を確認・修正のうえ公開しています。

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